大阪高等裁判所 昭和32年(う)439号 判決
判決理由〔抄録〕
所論は、(一)原判決は被告人の無資格運転と仮眠運転とを合わせて重過失致死罪として処断しているが、無資格運転はそれ自体として処罰せられるのは格別、重過失の内容となるものではない、被告人の運転技術は一人前の境に達しているから、本件事故の原因は被告人の仮眠運転にある、そして、通常人にとって疲労が仮眠に至るべき程度のものか否かの判断は容易でないのみならず、仮眠は通常結果に対する認識を欠いているから、仮眠運転は重過失に当らない、原判決は法令の解釈を誤っている、(二)量刑も不当である、というのである。しかし、原判決が「運転資格もないに拘らず」と記載したのは、被告人の無資格運転を本件重過失の内容として判示した趣旨ではなく、その前後の「被告人は自動車運転手を志し、中央タクシーに事務員として勤務していたものである」「客から頼まれるままに」等の辞句と並んで本件の犯情を示す趣旨に過ぎないことは、その法令の適用において、刑法第二百十一条のみを適用し、道路交通取締法第七条第二項第二号違反罪との想像的競合として擬律していないことからみて、明白である。
次に仮眠の点について、原判決の挙示する証拠によると、被告人は、前夜二時頃まで仕事をし、朝六時頃客に起されたので、睡眠不足のため睡気を催し、ねむくてたまらず前方を注視することができなくなったことを覚知しながら、居眠り状態のまま運転を続けたため、前方を自転車で同一方向に進行していた被害者に追突し、はじめて目がさめたのである。睡眠状態に陥ったのちの動作は刑法上行為といえないことは所論のとおりであるが、睡気のため正常な運転ができない虞があることを認識しながら、自動車の運転を継続することは、いわゆる原因において自由な行為として、その結果に対する責任を負わなければならないことはいうをまたない。そして、その行為は、無謀な操縦であって、通常人の注意義務を著しく怠ったものであるから、重大な過失であるといわなければならない。記録を精査しても、原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。